花とバスケと浴衣と
授業を終えてバイト先に行っても千花はどうやって仕返しをしようかと、そればかり考えていた。明日行かないとでも言ってやろうか…でも、そうすると、お祖母様に迷惑がかかってしまう。ただでさえ、浴衣を縫ってもらっていることで、手を煩わせているのに、今更予定を変更してもらうのは申し訳ない。そう言えば、お祖母様へのお土産をまだ準備していなかったことにハタと気が付き、千花はどうしよう…と別の悩みで頭を抱えることになった。
「千花ちゃん、気分でも悪い?」奥さんに声を掛けられ、千花はハッとした。いけない。今は仕事中だ。手が止まっているではないか。曖昧に笑いながら千花は答えた。
「すみません。大丈夫です。」
「何か悩み事?」
「いえ、悩み事っていうか…。」
「聞くわよ?」
「明日、年配のお世話になっている女性のお宅に訪問する予定があるんですけど、何を持っていけば良いかな?と思って。」
「年配の女性?」
「はい。浴衣を縫ってもらっていて、そのお礼に、お宅でチーズケーキを焼くことになったんですけど…。」
「チーズケーキを?千花ちゃんが?」
「はい。私時々作るんです。今度お店にも持ってきますね。で、その方のお宅で作るってことになっちゃってて…。」
「作ったものを持っていくんじゃなくて、そのお宅で作るのね?」
「そういうことになっちゃってて…。」
「ご主人もおられるの?」
「え?」
「そのお宅のご主人。」
「いえ、もう他界されてます。」
「じゃぁ仏間に御供できるお花にしたら?」奥さんの言葉にハッとした。
「それいいですね。」すごくいい考えだ。
「奥さんにはチーズケーキを食べてもらえるんだから、ご主人にってことで。」
「さすが、奥さん。素敵です。」この人に相談してよかった。
「普通の仏花じゃなくても良いと思うわよ。千花ちゃんせっかく華道習ってたんだし。和っぽい花束でも全然ありだと思うわ。」お祖母様のお宅のリビングを思い出して言った。
「前にお邪魔した時、ピンポンマムがリビングに飾ってあったんです。」
「まぁ、尚のこと良いじゃない。仏間に飾るように、一輪挿しぐらいの2つと、リビング用に同じ系統で小ぶりのアレンジを作ったらどう?」すごい素敵だ。
「お願いできますか?」千花が奥さんに聞くと、キョトンとした顔で奥さんが言った。
「何言ってるの?千花ちゃんが自分でしなきゃ意味が無いわ。」
「え?」そういうこと?
「千花ちゃんからのプレゼントなんだから。」
「良いんですか?」作らせてもらえるんだ。
「せっかく花屋で働いてるんだから、自分が気に入ったものでいいのを作ってみたら?」
「ありがとうございます。」
千花は、営業時間中に奥さんと相談しながら仏前用の花を決め、小ぶりの丸い籠にアレンジをすることに決めた。閉店後に、奥さんと店内でああでもないこうでもないと言いながら、ピンポンマムを中心に小ぶりの和っぽい可愛らしいアレンジが仕上がった。奥さんが仕入れてきた透かしの入った濃い緑色の和紙を使わせてもらい、アレンジを和紙とフィルムで包装した。奥さんがリボンを掛けてくれて、すごく素敵なアレンジになった。
「可愛い。コレなら絶対気に入ってもらえると思います。」千花が興奮して言うと、
「良かったわ。千花ちゃんの初めてのアレンジだもの。写真撮っとかなくちゃ。」奥さんはそう言うと、奥へカメラを取りに行ってしまった。写真…。そう言えば、と千花は昼の出来事を思い出したが、目の前のアレンジに目を向けて、今は考えないと決めた。奥さんが写真を撮ると、
「明日何時頃取りに来る?」と聞かれ、明日は定休日だと言うことを千花は思い出した。
「今日持って帰ります。」
「そう?夕方なら私も居るから、預かってても良いわよ。」
「良いんですか?授業後なので、いつも来る時間になってしまうんですけど。」
「その時間なら必ず居るわ。奥のインターフォンを押してね。」
「ありがとうございます。」花代を千花が払おうとすると、奥さんは要らないと言った。それじゃぁ千花からのプレゼントにならないからというと、じゃぁ花のお代だけと言って、アレンジ料を入れずに花代のみで伝票を切ってくれた。
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