花とバスケと浴衣と
マンションのエレベーターを上がり、インターフォンを押すと、お祖母様が
「はいはい、お待ちしてましたよ。」と出てきてくれた。
「こんにちは、お邪魔致します。」千花が頭を下げると、お祖母様は笑顔で
「どうぞ。」と言ってくれた。駅前のスーパーで買ってきた材料一式も類先輩が持ってくれていたので、類先輩は、それをとりあえず、キッチンに運んだ。
「今日はすみません。キッチンをお借りすることになってしまって…。」千花が謝ると、お祖母様は笑いながら、言った。
「あなたが謝ることは何もないわよ。類のわがままを聞いてくれてありがとうね。」
「いえ、でも、お祖母様にご迷惑をおかけすることになってしまって。」
「迷惑だなんて思っていないわ。私も楽しみにしてるのよ。あのチーズケーキ本当に美味しかったわ。」笑顔で言ってくれるお祖母様に、千花は紙袋を差し出した。
「あの、これ。お土産というか、感謝の気持ちを込めて、ちょっとしたものなんですけど。」
お祖母様は驚いた様子で
「まぁ、そんなに気を使わなくても良いのに。あら、何かしら?まぁ素敵なお花だわ。」
紙袋から小ぶりの円形のアレンジを出し、脇に添えてあった一対の一輪挿しを見て、お祖母様は顔をほころばせた。千花はホッとしながら説明をした。
「私花屋でアルバイトをしているんですけど、お店の奥さんにお土産の相談をしたら、仏前に飾るお花にしたら?ってアドバイスをもらって。以前にお邪魔した時に、ここにピンポンマムが飾ってあったのを思い出したので、お祖父様にお供えするのとお揃いの花で、アレンジをさせてもらいました。」お祖母様は、とても気に入ってくれたようで、
「ホントにオシャレなお花ね~。お爺さんびっくりするんじゃないかしら。お爺さんの事を考えてくれたその心遣いが嬉しいわ。ありがとう。早速飾ってくるわね。」と仏間へ入っていった。普通の榊と小菊が少しだけ入っていた花瓶に、千花が作ったピンポンマムの小さな花束を入れると、一気に華やかな雰囲気になった。お祖母様と一緒に手を合わせると、
「まぁ、お花を変えるだけでこんなに仏壇のイメージも代わるのね。お爺さんもきっと喜んでいるわ、ありがとう。」
「気に入って頂けて良かったです。」
「こっちは、リビングに飾りましょう。ホントに可愛らしくて素敵だわ。ありがとう、千花さん。」お祖母様が本当に喜んでくれて、千花は首を横に振りながら、良かった…と思った。そこへ、キッチンに荷物を入れに行っていた類先輩が仏間を覗きにきた。
「なんだ、ココにいたのか。」
「類、あなた、ホントに素敵な彼女と出会ったわね。」
「え?あぁ、何の話?」
「このお花、千花さんがおじいちゃんと私にって持ってきてくれたのよ。」仏前の花を指してお祖母様が説明をした。類先輩は驚いた顔をして、
「千花ちゃん、いつの間にこんなの準備してたの?」
「昨日のバイトの時に作らせてもらって、授業の後引き取ってきました。」千花が答えると、類先輩は
「えっ…」と言ったまま固まってしまった。千花は何か変なことを言っただろうか?と首を傾げると、何故か涙目の類先輩が突然千花をギュッと抱きしめて言った。
「ありがとう、千花ちゃん。」千花はあまりに突然のことで驚き、一瞬息をするのも忘れてしまったが、お祖母様が隣に居るのになんてことをするんだと思い、
「ちょっっちょっと、類先輩離して下さい!」と腕の中でモゾモゾと暴れた。顔を真っ赤にして抵抗する千花を見て、お祖母様が言ってくれた。
「類、いい加減にしなさい。千花さんが困ってるでしょ。」お祖母様の一言で我に返った様子の類先輩は、やっと千花を開放して、
「ごめん。ちょっとあまりにも感動しちゃって。」とポリポリと頭を掻いた。千花が赤面しながら類先輩を睨むと、千花の表情を見た類先輩は一瞬ビクッとなって、
「ごめんなさい。もうしません。」と謝った。お祖母様はそんな二人の様子を見て、コロコロと笑った。

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