涙、夏色に染まれ
 顔見知りの大人たちと挨拶を交わした。みんな口数が少なくて、力なく笑ったり、うつむいたりして、それぞれの家や職場のほうへ去っていった。

 ちょうど、人々が解散してしまうタイミングで、明日実と和弘のおかあさんが軽トラを運転して、昼ごはんを届けに来てくれた。水筒に入ったお茶と、おにぎりと、魚の焼いたのと、切ったスイカだ。

「久しぶりね、結羽ちゃん、良ちゃん。元気しちょったね。ねえ、また今度、ゆっくりおいで。次んときは、うちに泊まってよかけんね」

 マイペースにまくし立てて、明日実と和弘のおかあさんは、家のほうに戻っていった。話が手短だったのは、あたしの母とSNSでのやり取りが続いていて、あたしと直接話すこともないせいだろうか。

 明日実があたしたちの顔を見ながら言った。
「これからどうしよっか。船、五時やもんね。だいぶ時間がある。とりあえず、お昼、どこで食べる?」
 良一が答えた。
「あの防波堤のほうに行こうよ」

 異議なし。
 あたしたちは昼ごはんを持って、船着き場とは逆のほうを目指して、海際の道を歩いた。明日実と和弘は、カゴにいろんな道具の積まれた自転車を押している。並び順は、いつもと同じ。

 海に突き出したコンクリートの防波堤では、小学生のころ、釣りをしたり泳いだりして、よく遊んだ。遊びの合間に、今日みたいに昼ごはんを届けてもらって、みんなで分け合って食べたりもした。

 歩きながら、良一がつぶやいた。
「防波堤、こんなに近かったっけ? 昔は、もっともっと広い世界を四人で占領してるような気分だったんだけどな」

 ギターと自転車は、防波堤のそばの、山の影に入り込んだバス停に置いた。小近島のバスはワゴン車みたいなサイズで、朝昼夕の三便、走っている。車を持っていないお年寄りが、船着き場や教会の行き来に使うんだ。

 日差しを浴びっぱなしの全身がひりひりする。日に焼けた肌が赤くなりかけている。明日実や和弘みたいにきれいな日焼けができる体質ならいいのに、あたしの肌は、太陽に照らされると、すぐやけどみたいになってしまうタイプだ。
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