【完】ファムファタールの憂鬱


けれど。

そんな願いも虚しく。
翌日、私はまさしく危機的状況に立っていた。


ここは、次の授業を受ける教室とは反対方向の裏庭に面する場所。
私は真っ青になって、窓辺から出入り口付近までなんとか居場所を変えることに成功する。
だけど、近寄られる圧に、足が上手く動かない。


「あのさ、神咲さん…俺ねずっと前から神咲さんのこと…」

「や、あの…ちょっと…ま、」

「好きなんだ!付き合って下さい!」

「…ご、ごめんなさいっ!」

「あっ!神咲さん!」


あー!
やらかした!
やらかしたー!


同じゼミの進藤くんという男の子が、用事があるからと爽やかに言ってきたので、なんの疑いもなく付いて行った自分が、この場合は悪いのだけれど。


お昼時のキャンパス内。
人はまだ沢山残ってる。


今日はこの後、まだ午後の授業があるというのに、一番禁句の言葉を受けてしまった。


もー…なんなの。
みんな、好き好き好き好き…軽過ぎやしない??


私は、返事もそこそこにそこから猛ダッシュで立ち去ると、人気がないことを確認してから、敷地内のちょっとした森林公園みたいになっている場所に逃げ込んで、隠れて小さくくしゃみをした…。


「くしゅんっ」


ぼわんっ



「…はー…最悪」


子猫になってしまったのは、全身のもふもふふわふわ感て分かる。
私はがっくりと項垂れると、ポツリ、と呟いた。


「どうにかして、ジーザス…」


そうすると、ふと此方の方に向かってくる人の気配を本能的に感じて身構えた。


ほんとに、ジーザス…。
私のことを助けて下さい…。



「…誰?…誰かいる?」


その声を聞いて、私はビクビクと身を震わす。


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