【完】ファムファタールの憂鬱
そんな突っ込みを入れてる私に気づくはずもない彼は、困った顔をしてこう言った。
「ごめんな?ほんとは連れて帰ってやりたいんだけど…」
そして、きゅうっと抱き締められて、私の心は大慌てになる。
いやいやいや!
それは此方の方からごめんなさいです!
許してやってください!
そう思って震えていると、彼は何を思ったのかもう一度私の頭を撫でてくる。
すると…。
「おーい!迅!そんなとこで何やってんだー?」
「んー、今行くー。……てことで、ほんとごめんな?またすぐに会いに来るから…待ってて」
と言って、にっこり微笑むと私をそっと地面に下ろしてくれた。
彼の手は何処までも優しい。
そして、たったったっと、軽快なリズムで走り去る彼…ジンくんと呼ばれたその人の後ろ姿を眺めながら、その日初めて猫になるのも悪くはないか?と思ってしまった。
こんな…一目惚れシチュエーションていうものが、あってもいいんでしょうか?ジーザス?
私はその後、元の姿に戻っても、暫くその場を離れられなかった。