飛鳥くんはクールなんかじゃない
「一成、邪魔」
抑揚のない声が菊川くんの後ろから聞こえて、ドキンと心臓が跳ねた。
さっきまで一華ちゃんのフォローをしていたはずの飛鳥くんが、いまここにいる。
「もう上がる時間か」
「ん。だから花帆、帰るぞ」
菊川くんに目を向けることもなく、飛鳥くんの瞳がまっすぐに私をとらえている。
もうチョコレート色のエプロンは付けていない飛鳥くんは、菊川くんに千円札を押し付けると私の手をとった。
「え、こんなにいらな……」
目を丸くした菊川くんのことなんておかまいなし。
菊川くんに挨拶をする間もなく、引っ張られるがままに私はお店を後にした。