飛鳥くんはクールなんかじゃない
「ちょ、飛鳥く……」
お店を出ても、飛鳥くんは無言でツカツカと歩くだけ。
いつものことながら、不機嫌なのが丸わかりだ。
やっぱり勝手にお店に来たことを怒ってるんだろうか。カフェラテを作ってくれたときよりも、いまはさらに雰囲気がトゲトゲしている。
「あの、あす」
「……ねぇ、わざとやってんの?」
「え?」
ピタッと立ち止まったのと飛鳥くんが喋ったのは、ほぼ同時だった。
「その格好も、化粧も。自覚してやってんの?一成にアピール?」
「なに言って……」
「赤いリップなんてつけたことないだろ」
伸びてきた飛鳥くんの手が、私の唇に触れる。
クイっと拭われたそれは、飛鳥くんによく思われたくてつけたものなのに。