願い婚～幸せであるように～
加藤さんと私が名刺交換してから、促された椅子に座ったとき、ドアがノックされてコーヒーが乗ったトレイを手にした女性が入ってきた。

彼女はカップを置いたあと、加藤さんの耳元でなにかを小声で話す。


「え、そうなの？」

「はい」

「あ、じゃあ、あとで呼びに行きますと伝えて」

「分かりました。……失礼しました」


女性が出ていくと、加藤さんが姿勢を正した。


「ただいま、うちの部長が珍しく在社しておりまして、ご挨拶させていただきたいと言っているそうです。こちらに呼びますので、少々お待ちいただけますか？」

加藤さんの話す部長がどんな人か知らない私は、どんな返事をするのがいいかと早奈子さんを見た。早奈子さんは驚いた顔をしていた。


「えっ、あの茅島部長がですか？」


あのと言われる人は、どんな人なのかと不思議になる。加藤さんはそんな反応をする早奈子さんを微かに笑う。


「はい、あの茅島部長です。仕事熱心な方なので、どんな方でも顔を合わせたいと前々から言っていまして」

「あー、なるほど。では、お待ちしますね」

「はい、ありがとうございます」


加藤さんが呼びに出ていくと、同時に私は隣の早奈子さんに体を向けた。
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