魔法の使い方
 ブティックを出たミーナが歩いていると、後ろから走ってきた男は追越し様に、着替えの入った袋をひったくって行った。彼女は男を追いかける。男はミーナを撒こうと狭い路地ばかり入り込み、なかなか追いつけない。

Vaŗsĩm!(風よ)

 彼女は必死で風を起こす呪文を叫んだ。

 思いが通じたのか、男の足元に風がまとわりつきバランスを崩して転ける。ミーナはその隙に盗られたものを回収した。しかしその間に、男は逃げてしまう。

 そこで彼女は気づいた。狭い路地ばかり通ってきたせいで、現在地がわからなくなっていたことに。おまけに人通りも少なく、帰り道を尋ねようにも尋ねる相手がいない。

 どうしたものかと考え込んでいると、不意に声が聞こえた。それも聞き覚えのある、できれば聞きたくなかった声。

「げ、いたのかよミーナ」

 そう、ヴィオルドの声だ。
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