香りであなたを癒やします ー 王太子殿下、マッサージはいかがですか?
だから、自分の力で異世界に戻る方法を見つけようとした。
屋敷を抜け出しては、敷地内を散策するも、何も手がかりはない。
暇つぶしに薬草や花びらを集めたり、父には王都に行った時に、いろんな種類の香油を買ってきてもらった。
だが、どうしても元の世界のことを考える。
ドレスのポケットからスマホを取り出す。
それは、ベッドの下に落ちていたもの。
なぜスマホだけがあるのかはわからない。
私が異世界に来る直前まで握り締めていたからかも。
でも、これだけが、私が異世界から来たという証拠。
電源を入れて、家族の写真を見る。
笑顔の父と母。
もちろん、前の世界の両親。
今頃私がいないって心配しているかな?
それとも、死んだことになっているだろうか?
ずっと見ていたいが、この世界にいては充電はできない。
兄にも見せようかと思ったが止めた。
前いた世界と違って文明が遅れていて、ここにはテレビも電話も、電子レンジもない。
水だって井戸から汲んでくる。
だが、そんな生活にも慣れて来た自分が怖い。
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