香りであなたを癒やします ー 王太子殿下、マッサージはいかがですか？

私がいた東京……いや世界はどこにもなく、自分が異世界にやってきたと理解するまで十日くらいかかったような気がする。
以前いた西暦は存在せず、この世界はオリグス暦で一四九九年で、季節は日本同様四季があって、今は春。
私の名前が胡桃だからこの世界のクルミさんになってしまったのかも。
だけど、クルミさんは私と違って容姿端麗で、教養のあるご令嬢だった。
長い黒髪は同じらしいけど、顔立ちや中身が全然違う。
顔は目がぱっちりした美少女で、鏡を見てもこれが自分の顔と納得出来なかった。
社交界のパーティに顔を出せば、数多の男性にダンスを申し込まれるが、男性の足を踏んでかなり迷惑をかけた。
サロンに招待されても、気の利いた言葉が浮かばず、一言も喋らないで帰る始末。
乗馬をすれば、すぐに馬から落馬し、兄が額に手を当てて『一体どうしたんだ！』と嘆く。