ただ愛されたいだけなのに


 受付は全て勇太に任せて、8号室へ案内された。四畳ほどしかなさそうな部屋に、大きなテーブルとテーブルを囲う3つのソファー。そして大きなテレビとテレビ台。こんなに狭っ苦しい部屋は自分の家だけで十分だけど、どうしても距離が縮まる——あれやこれやと四苦八苦しないで、自然と近づける。

 勇太が奥につめたから、わたしは手前の、ドアから一番近いところに座った。するとまぁ不思議なことに、勇太が隣に密着してきた。ちょっと待って、そういうこと?

「なに歌う?」
 勇太の息はガムの匂いがした。わたしと会うから口臭を気にして噛んでたってことなら、悪い気はしない。でもわたし、ミントの香りって苦手なんだよね。
「先に歌って」
 わたしは少し彼から離れた。
「ていうか、近すぎ」

「ごめん……。嫌だった?」
 勇太は天使の赤ちゃんのような瞳で、わたしを見上げた。
「別にいいけど……」
 いいとしか、言えない。

 勇太は『EXILE』の曲を入れた。
 音量が小さすぎる。マイクの音量が大きすぎる。男の人って、歌う時の声が異様に大きいのはなんで? うーん。可もなく不可もなしの歌声——ってうわわ、わざとふざけて歌いだした。頭を振って、ヘッドバンキングなんかしてる。でも待って、これがふざけてなかったら、笑っちゃいけないよね?


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