ただ愛されたいだけなのに


 わたしは約四分間、笑顔を保ち続け、最後には拍手までした。歌い終えた勇太は、大胆にも抱きついてきた。
「ねえ、ふざけた? そうでしょ?」
「だって真面目に歌ったら恥ずかしいじゃん! 夢も歌って」
「うーん」
 勇太が抱きついてくるせいで、全身が強張ってしまって、明日は筋肉痛になりそう。
 わたしは音量を調節しながら、反対側のソファーに移った。
 六曲交互に歌い終わってから、勇太が曲を入れるのを中断した。
「話そう」
「いいけど……」
 残念。わたしはカラオケで話すのが嫌い。カラオケって歌う場所でしょ? だけどまぁ勇太の奢りだし、不満は言えない。それにわたし、まだまともに勇太に顔を見せてない。ブスだから。

「顔を見せて」
 すでに隣で密着している勇太が呟いた。
「俺まだまともに夢の顔見てないよ」
 だから見せてないんだってば。
「嫌。ブスだから」
「そんなにプリクラと違うの?」
「うん、そう」
 そうだけど、その質問、ちょっと傷つく。だって一切顔を見てないわけじゃないんだし。目を合わせてないだけで。
 勇太は両手を広げてわたしを抱きしめた。そして耳元で「腕回して」って。わたしはそれに従って、奇妙な時間が流れた。カラオケ店で抱き合う男女。密かに、自分の気持ちに気がついた。わたしはこんなの、求めていない。


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