ただ愛されたいだけなのに


「はい、もしもし」
「おー、もしもし」
 勇太の陽気な声が返ってきた。
「今なにしてる?」

「学校の帰り。そっちは?」
「ん、俺も今帰って来たとこ」
「早かったね」
「今日はね。たまたまだよ」
 次に勇太はとんでもないことを言った。
「今から俺んち来てよ」

「はぁ?」
 ギャッ、泥が跳ねた。サイテー。
「もう終わったんでしょ?」
「終わったけど、足がないわ」
「電車があるじゃん」
「お金ない」
「二百六十円だろ」勇太が笑う。「それくらい俺が出すって」
「出さなくていいよ。帰り遅くなるし」
「電車ってけっこう遅くまで走ってるでしょ」
「面倒くさいんだけど」
「ひどっ」

 それから約十分間、断り続けた。家について、おやつの袋を開けてソファでくつろいで、外が暗くなるまで電話は続いた。締めはこう——あ、誰かからキャッチが入った——えー、またあとで電話できる?——うんうん、できるできる——プツッ。


< 127 / 167 >

この作品をシェア

pagetop