この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 一度言ってしまうと、あとは濁流のように押し寄せてくる。溜まっていたダムが決壊してしまったように。


「もうやだ……。辛い。本当に辛い。ひたすら辛い。気持ち悪いのいつまで続くの?もう嫌だ本当に逃げたい……」


 ボロボロと涙がシーツに落ちた。
 上着を掴んだ手に力がこもる。指先が白くなった。

 ローデリヒさんの胸に額を当てる。彼がどんな顔をしているのが知るのが怖くて、顔を上げられなかった。


「っ、……すまない。……本当に、すまない」


 頭上から情けない声が降ってくる。
 私の背中に回された手が、宥めるように優しく動く。
 その手つきは随分と、ぎこちないものだった。
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