この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 自身の服が泥まみれになる事も厭わずに、地に膝をついて私の顔を覗き込む。必死に頷くと、安堵したように息をついた。


「それならばよかった。……ここは雨がよく当たるから移動する。……失礼」


 膝裏と背中に腕を回されて、抱き上げられる。あまり年の変わらない少年だと思っていたが、意外と力持ちだった。

 彼が何やら呪文を唱えた後に、地面に敷いたハンカチの上に座らされる。その周りは雨など降っていなかったように乾いていた。

 気が付くと、汚れたドレスも乾いて綺麗になっている。さすがに裾の破れは元通りにはならなかったようだったが。靴も新品のようになっている。


「魔法だ。特段驚くことではない」


 平然とした面持ちで、少年は雨に濡れた自分の髪を一瞬で乾かした。私達がいる所は雨が降ってこない。たぶん雨避けの魔法を使ったのだろう。


「足を見せろ。怪我をしているんだろう?」


 目ざとく足の怪我を見つけた少年に、大人しく靴を脱いで足を見せた。ズクズクと熱を持つ足に辛抱が出来なかったのもある。
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