この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 毎晩悪夢を見ただけではなかった。
 その後も食べ物に毒物が混入していたり、何度も刺客に襲われそうになった。その度に付き添ってくれていた、何人もの侍女が一人、また一人と辞めていく。

 そして、私の能力で亡くなっていった人達と同じ道を辿るのではないか、とのおじ様に対する恐怖心にも挟まれていた。

 首がキュッと締まるかのような、息苦しい日々だった。

 いつ終わるか分からない、死と隣り合わせの日。
 それが唐突に終わってくれたのは、私にとって幸せな事だったのだ。

 例えそれが、――私を貶めるような悪い噂であっても。
 誰が初めに話し出したのかは分からない。

 曰く、アリサ・セシリア・マンテュサーリは誰にでも足を開くふしだらな女である。
 曰く、アリサ・セシリア・マンテュサーリは目麗しい従僕を侍らせているふしだらな女である。
 曰く、アリサ・セシリア・マンテュサーリは貴族、平民問わずに常に男を漁ってるふしだらな女である。

 全て私の貴族令嬢としての振る舞いを辱めるような話だ。ほぼ内容自体は同じだが、まるであらかじめ起爆剤が設置されていたかのような速さで社交界に広まっていった。
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