この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 噂の恐ろしい所は印象操作もあるが、それだけではない。

 職業貴賤問わず、勘違いする者はいる。
 貴族の男も、護衛騎士も、噂を信じた軽薄な男が私にしつこく言い寄ってこようとして――、ルーカスに文字通りぶっ飛ばされていた。酷い者は刑罰も受けていた。

 本来ならば護衛する騎士もちょっかいを出そうとするこの状況に、ルーカスも事を重く見た。

 聞きたくなくても耳に入ってくる。噂を信じた男がどんな目で私を見て、思っているのか。おじ様の愛人ではないかという疑いすらあった。

 気持ち悪い。

 もうその頃には、すっかり私は男の人に対して恐怖を抱き、極力避けるような行動ばかり取っていた。

 いざと言う時の為に、ルーカス指導のもと、女騎士と最低限の護身の術を学んだ。本格的じゃない。完全に倒しきらなくてもいい。一瞬の隙をついて逃げ出せるような、そんな感じのもの。

 意外と筋が良くて、ルーカスにベタ褒めされたのだけれど、普通に嬉しくなかった。褒め言葉が「アリサが男だったら、僕と良いライバルになれてたのに……」だった。
 本当に嬉しくない。
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