この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「なんというか……、もっと触れていたいって思ってしまってだな……」


 本当に何を聞かされているのだろうか。
 イーヴォは自分の目が死んだ魚のようになっていくのを自覚した。だが、主君の為だ。


「殿下……。そういえば最近、自然と奥様の事見たりしてます?」

「自然と?……うーん、危なっかしくて目が離せない、と思った事はあったな」

「……奥様が悲しい顔をされたらどう思います?」

「悲しい顔?王太子妃に悲しい顔をさせること自体が不敬だろう?」


 イーヴォの目はさらに澱んだ。恐らく死後三日経った魚の目になっている。


「では最後に……、奥様が他の男と仲良くしてるのは?」

「仲良く?出来るわけがないだろう。王太子妃なんだぞ」


 急に不機嫌になったローデリヒに、「例えですよ」とイーヴォは宥めながら聞く。


「想像ですけど、奥様が他の男の腕の中にいたり、奥様が他の男とキスしてたり、奥様が他の男と寝てたり……」


 ローデリヒは数日前のアーベルのタイムスリップを思い出す。一日キッカリ経ってアーベルは帰ったが、一番最初の対面時に、アーベルがアリサに抱き着いていた。その光景を見て、ローデリヒは頭が真っ白になったのだ。

 アーベルはローデリヒと顔がそっくりだし、息子なので最初の衝撃があっただけだったが――、それを他の男に置き換えてみた。例えば、目の前に座るイーヴォとか。
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