この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】

こうして殺人事件は起こったのである?(他)

「ふ、腹上死か……?!」

「…………は?!」

「…………えっ」


 キルシュライト王国の国王の叫びに、近衛騎士の男とほぼ同時にティベルデは小さく声を上げた。

 死。死と言わなかったか?

 すぐ隣で治療を受けている王太子を見下ろす。その瞼は、ずっと力なく閉ざされたままだった。
 そう。ずっとこの状態なのだ。
 どんなに揺すっても起きない。声を掛けても反応しない。

 やはり、と推察していた結論に至って、ティベルデの顔から一気に血の気が引いた。

「わ、私は殺してない……!」



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 ティベルデ・フェルナンダ・キュンツェルにとって国王の側室という立場は、非常に息苦しいものだった。

 燃えるような赤い髪。エメラルドのように爛々と輝く瞳で、よく気の強い少女と誤解されてきた。ティベルデが外では完璧な淑女の皮を被っていたのもそれを助長していたのだろう。父親ですら、ティベルデが気の強い少女だと疑わなかったのである。

 だが――、ティベルデは酷く臆病な性格(ビビり)であった。
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