この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ただでさえ、一ヵ月間も首都キルシュを空けていた。かなり書類関連の政務が溜まっている。

 ローデリヒはこういう場合、魔法を使ってペンやハンコ、紙を複数操って作業効率を上げている。しかし、片手に一本のペンしか持てないように、この魔法もペン一本動かすのに掛かる視覚的情報、触覚的情報、行動命令は片手でペンを持って書くのと同等。

 それを複数同時に動かしているので脳に相当負担が掛かっていた。慣れれば誰でも出来る芸当だが、持続時間は魔力と比例するので、やる人はほとんどいないが。

 ローデリヒの護衛騎士であり乳兄弟でもあるイーヴォも、あまり事務作業が向いていないにも関わらず、せっせと手伝いをしていた。
 ヴァーレリーもシャツにベスト姿で書類を必死に捌いている。まだ慣れてはいないが、真剣に取り組んでいた。


「……そういえば、ヴァーレリー。お前はまだ侍従の地位にいたよな?」

「はい。父がようやく根負けしてくれたので、来月正式に文官になる予定です」
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