この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 母親付きの侍女の顔に嫌な予感を覚えながら、それでもローデリヒは奥歯を噛み締めた。


「どうして……」


 どうして、母上は僕がいるのに気付かなかったのだろうか?


「……母上は、御目が悪いのか?」


 辿りついた精一杯の答えに、近くにいた衛兵は不思議そうな表情だった。母親と繋がりのない衛兵に聞くより、父王に聞いた方が手っ取り早いとローデリヒは口を閉ざす。
 残念ながら、後日聞いた際にはそんな事はないと言っていたけれど。



 次に回復したべティーナと会った時、まるで先の出来事は幻であったかのようだった。元通り、どこか浮世離れした雰囲気の、少女のような姿。純粋無垢でいて、今にも消えてしまいそうな儚さのまま。そして、以前のようにローデリヒの事を可愛がってくれたのである。

 だからローデリヒは、前のことに口を出す気はなかった。

 拒絶されるのが怖くて。
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