この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
薔薇はまだ蕾の方が多かった。これから満開になるのだろう。一つだけ、もう満開になっていたから棘に注意をして切り落とす。花束でなくても、一輪だけでも喜んでくれるだろう。咲きましたよ、といち早く報告するのだ。
慎重に棘を切り落していた。もうそろそろその作業も終わるか、といった頃。滅多に人が来ないはずのこの後宮の外れの部屋に、人の声が届いた。
他の側室だろうか?何故こんな所に?あまり遭遇はしたくなくて、ローデリヒは木々の隅に身を隠す。それと同時に、細い手がべティーナの部屋の窓を開け放った。
「――もうそろそろ、咲く頃ね」
平民初の側室が亡くなった事に国中が悲しんだ。普段は一線引いた王族との結婚。彼女のシンデレラストーリーは、国民の憧れでもあった。
他の側室もまだ喪が開けていないので、黒服を身にまとっている。禁欲的な格好なのにも関わらず――、いや、むしろ黒服に赤い口紅が艶やかに映えるハイデマリーの姿を見て、ローデリヒは固まった。
ハイデマリーは隠れているローデリヒには気付かず、室内の誰かに語りかける。
「ほら、べティーナの好きな花がもうすぐ咲きますわよ」
「――ああ」
慎重に棘を切り落していた。もうそろそろその作業も終わるか、といった頃。滅多に人が来ないはずのこの後宮の外れの部屋に、人の声が届いた。
他の側室だろうか?何故こんな所に?あまり遭遇はしたくなくて、ローデリヒは木々の隅に身を隠す。それと同時に、細い手がべティーナの部屋の窓を開け放った。
「――もうそろそろ、咲く頃ね」
平民初の側室が亡くなった事に国中が悲しんだ。普段は一線引いた王族との結婚。彼女のシンデレラストーリーは、国民の憧れでもあった。
他の側室もまだ喪が開けていないので、黒服を身にまとっている。禁欲的な格好なのにも関わらず――、いや、むしろ黒服に赤い口紅が艶やかに映えるハイデマリーの姿を見て、ローデリヒは固まった。
ハイデマリーは隠れているローデリヒには気付かず、室内の誰かに語りかける。
「ほら、べティーナの好きな花がもうすぐ咲きますわよ」
「――ああ」