この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 あんまり表情には出ない。滲み出る雰囲気というか、何となく、みたいなそんな曖昧な予感だった。今は部屋ごと結界を張っているけれど、普段から心を読んでいるのもあるんだろう。

 吐息がすぐ傍で聞こえるくらいに近付いて、おでこをくっ付ける。彼の月光のような色の髪が、深さを増して琥珀色のように見えた。

「随分と心配、してますね?」

 ローデリヒ様は観念したように目を閉じて、深く息を吐く。

「当たり前だろう。心配しない訳がない」
「まあ、そうですよねー……」

 この状況で心配するなという方が無理な話なので、全面同意する他ない。
 頬から手が移動して、存在を確かめるように抱き締められる。

「本当に無理だけはするな」

 それは、絞り出すようで。呼応するように後頭部に回った手が、私の長い髪の毛をくしゃりと乱した。
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