この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「それで?配置はどう?」

 そして、やや後ろにいた兵士数人に声を掛ける。唯一片膝と片手を地に付けていた一人が、完了しました、と応えた。

「じゃあ、そろそろ行こうか。先鋒は僕でいい?」

 ルーカスに問い掛けられたティーナが軽く目を閉じる。次の瞬間、薄氷色の瞳は覚悟が決まったように冷たい色をしていた。

「――ええ」

 ティーナの言葉を聞いた瞬間、ルーカスは「よっと」という軽い掛け声を上げて――、

 崖から、飛び降りた。

 吹き上げる風と抵抗で、黒髪が大きく煽られる。落下のスピードに身を任せながら、ルーカスは軽く拳を握った。
 屋敷の屋根にぶつかる、という所で軽く拳を

 振った。

 地震でも起きたかのような轟音が響き渡る。周囲の大地が、森が大きく揺れた。砂塵が舞う。煙のように。

 砂埃が風であっという間に流された後には、先程まであった屋敷の半分が、無惨にも消え去っていた。
 思いっきり地面を殴ったルーカスは、自身の拳を軽く開く。建物を崩壊どころか完全に粉砕、そしてクレーターまで作ったのにも関わらず、指にはかすり傷一つもない。服が砂まみれで汚れているだけだった。
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