この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 小さく声を出した私に、ハイデマリー様はわざわざ言い直した。

「朝に飲んだけれど、ここのお茶は不味かったのよ。だから要らないわ」

 一瞬、私の淹れるお茶が不味いのかと思った……。

「あ、そ、そうなんですか……」とビビりながら、すごすごと引っ込む。ってか、ハイデマリー様に振舞った事すらなかったから、私のお茶が不味いか美味しいかなんて分かんないよね。ちょっと自意識過剰だったわ……。

 再度部屋に響くアーベルの寝息。

 この……この沈黙、果たして大丈夫なのだろうか?黙っていて大丈夫なの?私とハイデマリー様の共通の話題って……、国王様の話題とか?関係性微妙なローデリヒ様の話題って出しちゃマズいよねえ……。

「あ、あの、ハイデマリー様。朝御飯って召し上がりましたか?」
「不味いから要らないわ」
「あ、そ、そうだったんですか……」

 2度目の撃沈をして、私は再度すごすごと引き下がった。どうやって複雑な関係の義理の母親とコミュニケーションを取ればいいのだろうか。謎だ。

 再び地獄が訪れるかと思ったけれど、アーベルがベッドの上でモゾモゾと動き出した。寝返りを打ってこちらへ向く。寝ぼけた海色の瞳でボーッとこちらを向く。しばらく私とハイデマリー様を見ていたけれど、段々目が覚めてきたのかパチパチと瞬きをして起き出してきた。ベッドから抱き上げる。
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