この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
「アーベル、おはよう」

 まだ完全に目が覚めていないのか、ぼんやりとしている。ぐたあ、と私の肩に頭を乗っけて脱力した。柔らかい髪の毛を撫でていたけれど、強烈に視線を感じて思わず手が止まった。
 ハイデマリー様が私達を見ている。じっと、なんて可愛いものでは無い。凝視だった。

「ハ、ハイデマリー様……?」

 見られることに居心地が悪くなって、思わず呼びかける。自分が凝視してしまっていた事に気付いたのか、フイっと素っ気なく顔を逸らされる。

「何でもないわ。気にしないで」

 いやいやいやいや、顔は逸らされてるけど、思いっきり目がこっち見てるじゃないですか……。
 ……なんて事、言える訳がなかった。凄まじい居心地の悪さを感じながら、必死で気付かないフリをする。

 あれ、ハイデマリー様ってもしかしてツンデレ……みたいな……?
 こっそり盗み見るが、目が合いそうになって慌てて目を逸らした。キツめの顔立ちの美女だが、ツンデレはあんまり想像出来ない。

 徐々に覚醒してきたらしく、私の腕の中でひとしきり動き回ったアーベルは、ハイデマリー様をジッと見つめた。
 そう、ハイデマリーさんもこっちをガン見しているんですよね。自然と2人の目が合うわけで。
 無言のまま、2人は視線の応酬を繰り広げる。

 先に動いたのは、アーベルだった。
 不思議そうな顔のまま、アーベルはハイデマリー様に向かって両手を伸ばす。私はすぐに抱っこして欲しいという意図だと察したが、ハイデマリー様に分かるはずがない。彼女は黙ったまま、両手を伸ばしたアーベルを眺めているだけだった。
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