この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
(後編)おかえり。(他)
 全身が酷く軋んだように痛む。泥沼の中にいるように体が上手く動かない。

 ああ、時を超えた代償か――とアーベルは冷静な頭で理解をした。目を開けるのも億劫だった。
 だが、周りが騒がしくて、渋々目を開ける。

「あ、兄上……!!」

 視界のほとんどを埋め尽くすように、自分とそっくりな顔が映る。少し明るめの青色の瞳は、アーベルと目が合った瞬間、みるみるうちに薄い涙の膜が張った。そして、勢いよく抱き着いてくる。

「兄上えぇぇぇぇ!!お、俺は兄上が目を覚まさないかと……!!」
「うっ……」

 抱き着かれた際に全身に痛みが走った。体が思わず硬直する。呻くアーベルに気付いて、すぐ下の弟は慌てて離れた。

「あ、兄上!!すみません!!」
「い、いや、……大丈夫」

 大丈夫などではあまりなかったが、重い腕を持ち上げた。鼻水を啜りながら心配する弟の頭を撫でる。

「兄上……。ご無事で……っ!!」
「うん。ありがとう、レーヴェ」

 アーベルよりもずっとずっと強い光の力を持ちながら、アーベルの事を誰よりも慕う――というか、ただの重いブラコンは袖で乱暴に涙を拭った。

「あら、アーベル、目が覚めた?」
< 649 / 654 >

この作品をシェア

pagetop