桝田くんは痛みを知らない
 桝田くんは、周りを見下していたわけじゃなかった。


「わかったろ。俺が、どういう人間か」


 孤独なのは。

 孤独を選ぶのは、これが、理由だったんだ。


「こんな俺が。オマエのこと。好きになって、ごめんの、『ごめん』」


 ――――ごめん、オマエが好き。


「わかってる。こんなんで誰かを守るなんて、無茶なことも」


 資格がないとか。言わないでよ。


「宗田みたいな男の方が。オマエのこと幸せにしてやれるんだろうなってことも」


 ――わたしの幸せ、勝手に決めないでよ。


 桝田くんの手に、自分の手を、重ねる。


「やめろ」


 振り払われた、手。


「知らないうちに相手を傷つけてしまう。自分のことさえも、無自覚にな。だから他人と関わりたくない。人を好きになるつもりなんて。……なかった」


 その手で再び掴んだのは、桝田くんの、手。


 今度は振り払われないように。

 両手で、しっかりと、包み込む。
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