桝田くんは痛みを知らない
 知りたいと。

 知らなきゃと、強く、思った。


 この場から離れたくないと思った。

 桝田くんの隣に、いたいと思った。


「家庭科で裁縫を習っていたとき。腕に刺繍して叱られたこともある。爪を切りすぎたり。興味本位で、めくってみたり。となり街のヤバめな不良に目をつけられて、ナイフ出されたとき。少しもひるまない俺を、相手は不気味がっていた」


 わたしが心配そうな表情を見せてしまったせいか、

「まあ、昔の話だ」って付け加えて笑ってみせる桝田くん。


「もちろん、そういう異常行動ともとれるモノは。年々減っていった。頭で理解できるようになったからな。それでも飯を食っていて口の中を噛んだってわからないから。サビみたいな血の味で気づいたり」


 笑ってくれていても。

 声は、寂しげで。


「カラダを鍛えるのが好きでも。どこまで鍛えていいかの判断が自分でつけられないし。医者から色々なことを止められている」


 泣いているように、見えた。
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