桝田くんは痛みを知らない
 病気のこと教えてくれたのも。

 真剣な表情で気持ちを伝えてくれたのも。


 わたしに心を開いてくれたからなんでしょ?


「そんなんだと。すぐ、悪いオトコに騙されんぞ」

「桝田くんは悪いひとじゃないよ。もし、桝田くんが悪いひとだっていうなら」


 桝田くんの大きな背中に、手を回して。


「……騙されてあげる」


 離したくないって、心から願った。


「バカなやつ」

「嫌じゃなかったよ。キス」

「……は?」

「自分で、自分の気持ちがわからない。桝田くんのせいで。グチャグチャに、なった」

「つまり俺は。少しはオマエの中に入れたと?」


 少しなんてもんか。


「勝手に乱しておいて。勝手に突き放さないでくれる?」
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