桝田くんは痛みを知らない
 ――――ゲンカイ?


「オマエにその気ないのわかってても。オマエが無自覚に俺のこと煽ってるって知ってても。そんな態度とられたら。もっと。……したくなるだろ」


 その声は、とても優しくて。


「どうしようもないくらい。好きなんだ」

「……うん」


 だけど、弱々しくて。


 俺様で捻くれた桝田くんの面影は、なくて。


「収まりがつかない。自分が制御、できない」

「……セイギョ?」

「理性なんて。あってないよーなもん。そんな状態なのに。期待していいなんて、言われたら」

「!」


 桝田くんの腕が、背中にまわってくる。


「止められるものも止まらないけど。オマエは。それで、いーのかよ」


 桝田くんの体温《ぬくもり》が、制服ごしに、伝わってくる。


「桝田くんは。けっこうヒドい、けど。本当にヒドいことは。……しないと思う」

「そうとも限らねーよ」

「しないよ。絶対。じゃなきゃ、悲しそうな顔して本当のこと話したりなんてしないよ」
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