桝田くんは痛みを知らない
『ごめん』


 桝田くんの、あの言葉が。


 いつまでも頭から消えてくれなくて。


 それで、涙が、止まらなかった。


 桝田くんにキスされるまでは、わたしの中、マサオミくんでいっぱいだったのに。


 入り込んで、きた。


「桝田くんは、王子様みたいに、助けてくれなかったか〜」


 …………?


「そこでさ。『俺にしとけよ』とか言われたら。落ちるのにね」


『泣けば』

『我慢しなくていいよ』


「桝田くん。すごく、優しかった」


 でも。


 ――――何年も実らせてない恋なんて。今更。実らねえだろ。腐ってくだけで。


「……けど。ヒドいことも言われて」


 深い穴に突き落とされたみたいな気持ちになった。


 わたしは、まだ、そこから這い上がれないでいる。


 桝田くんが、わからない。
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