桝田くんは痛みを知らない
 えみるは、それ以上、なにも聞いてこない。

 わたしが話すのを待ってくれているのだと思う。


「どっちが、本当の桝田くんなのかな」


 意地悪な、桝田くんと。

 優しさのある桝田くん。


「どっちも桝田くんなんじゃない?」


 …………どっちも?


「だいたい、よく誘い出せたね。あの氷の王子をカラオケに。どんな魔法かけたの?」

「魔法なんて……。あれは本当に、勢いというか。思いつきで。桝田くんは巻き込まれたんだよ。正直なところ。迷惑だったと、思う」


 わたしの言葉に納得のいかない表情を浮かべたえみるが、ため息をつく。


「あのさ、古都。あたし思うんだけど。桝田くんは、行きたくなければ行かないよ」


 ――――!!


「考えてもみてよ。カラオケって、手紙を受け取るより体力も消耗する行為でしょ。もちろん手紙には書いた人の想いがつまってるから、どちらが引き受けやすいかなんて比べられないけど。少なくとも桝田くんが古都の誘いを迷惑だって思ったなら、断ったと思う。ううん。間違いなく断ってたよ」

「…………えみる」

「それから、古都も。桝田くんとまだ話し足りないとか、もう少し一緒にいたいとか。自覚あったにせよなかったにせよ、なにかしら思うことがあったんだよ。ないと誘わないでしょ? 2人の気持ちが同じだったと考えなきゃ。違和感しかないよ」
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