芦名くんの隠しごと



*



『白楼に入らないか』


そう声をかけたとき、彼はとても驚いたような顔をしていた。


当然といえば当然だ。


明らかに、初めて声をかけるときのセリフではない。



それでも

その後ろ姿が、なんだか消えてしまいそうだった。



……あのときの自分も、“あの人”には、こんな風に見えていたのだろうか。


そう考えると、目の前で驚いた顔を見せる彼にも、少し親近感が湧いた。


「聞いた。伊織から。あいつ、アンタのこと気にかけてたけど」


「それでわざわざ、言いに来たのですか。お仕事、ご苦労様です」


………穏やか、かつ丁寧な口調なのに、そこからは煽りと嫌味が含まれているような気がした。


< 171 / 279 >

この作品をシェア

pagetop