芦名くんの隠しごと
*
『白楼に入らないか』
そう声をかけたとき、彼はとても驚いたような顔をしていた。
当然といえば当然だ。
明らかに、初めて声をかけるときのセリフではない。
それでも
その後ろ姿が、なんだか消えてしまいそうだった。
……あのときの自分も、“あの人”には、こんな風に見えていたのだろうか。
そう考えると、目の前で驚いた顔を見せる彼にも、少し親近感が湧いた。
「聞いた。伊織から。あいつ、アンタのこと気にかけてたけど」
「それでわざわざ、言いに来たのですか。お仕事、ご苦労様です」
………穏やか、かつ丁寧な口調なのに、そこからは煽りと嫌味が含まれているような気がした。