芦名くんの隠しごと



「おれは、いくら伊織の頼みでも、気乗りしないことはやらないよ。伊織には勝てるから」


腕には自信があった。


驕りかもしれない。


けれど実際、おれが伊織───もっと言えば、誰にも負けたことはなかった。


「……ああ、冷酷無慙の芦名くん」


「………知ってるんだ」


「まあ、“こっち側”にいる人間なら、誰もが知ってると思いますよ」


『冷酷無慙』
そんなあだ名がつけられたのは、いつだったろうか。


別に、そんな人間ではないのに。



───なんて

言い切ることが、できない。


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