芦名くんの隠しごと



「野乃ちゃん、さっきぶりだね」


「……っ、はい。……よく、わかりましたね、私の家」


相変わらず穏やかな声。


それなのに、私にはもう“恐ろしい声”としてしか、認識されなくなっていた。


「そりゃあ、生徒会長やってるからね。ウチの生徒の住所くらい、カンタンにわかるよ」


楓さんと私は、明らかに“友達”では………ない。


少なくとも、私にとっては。


夏樹くんのことは友達だと思ってるけど、楓さんはトラウマとしての意識の方が強くて。


どうしても、イメージが壊れてくれない。


「……野乃、さっきの男の子じゃないよね?もしかして、この子が彼氏?」


本人が目の前にいるのにも関わらず、そんなことをそっと耳打ちで聞いてくるお母さん。


もう、どこにため息つけばいいのかわからない。


「……彼氏じゃないよ。それに、さっき言ったでしょ?」


私が好きなのは、芦名くん(送ってきてくれた人)だってこと。


< 91 / 279 >

この作品をシェア

pagetop