愛染堂市
「・・・オヤジ、俺は行きます」
ヤナギはテーブルの伝票を取り、そそくさと会計へと歩いて行った。
「なぁヤナギ、俺もコーヒー飲みたいんだけど・・・」
立ち去るヤナギに木村が声を掛けるが、ヤナギは聞こえていないかのようにそのまま立ち去る。
「・・・つれないなぁ」
『木村さん、俺もそろそろおいとましますよ』
「なんだよヤマモト、まだいいじゃねぇか?」
木村は内ポケットからクシャクシャのセブンスターを取り出し、その中の一本を食わえる。
そして手でライターを点ける仕草をしながら、「火、火」と俺に向かって言う。
『ライター持ってないんですか?百円なんて、大した額じゃないでしょ?副収に比べりゃ』
俺は懐からガスライターを渡しながら、嫌味に言葉を吐く。
「いや、百円の買うんだよ。コンビニの・・・ただすぐに無くしちまうんだよなぁ」
木村は儀礼程度に申し訳ない顔をしながらライターを受け取り、火を点けるとガスライターをそのまま自分の懐にしまった。