愛染堂市
―――――アサガオ



「おいジジイ!!勘違いしてねぇか?」



「何を?・・・珍しくペンキ屋が女連れで歩いてるんだ。・・・勘違いって事はねぇだろう?」



車屋のジイさんはニヤニヤしながらアタシの方を見て男に言った。

アタシは困惑したまま事の成り行きと、ペンキ屋と呼ばれている男の出方を黙って見ている事しか出来ない。



「なぁなぁジジイよぉ!!俺には一向に構わねえんだぞ!?・・・そのまま女置いてミニ貰って帰っちまうぞ!?」



「・・・そしたらこのベッピンさんに二度と会えなくなるぞ?」



「・・・だぁ~か~ら~!!別に俺はそれでも構わねぇんだよ!!」



「いいからサッサと金取って来いよ!!戻ってくるまでにタホを乗れる様にしといてやるから」



ペンキ屋の必死の抗議も、車屋のジイさんには全く通じず、ペンキ屋はイライラした様子で頭を掻いていた。

 アタシはペンキ屋のそんな仕草が愛らしくて可笑しくて笑っていた。



「お前も笑ってないで何とか言えよ!!・・・俺がミニに乗ったまま逃げちまったら売られっちまうぞ」



『アタシ?』



「そうだよ」



『アタシ売れるのかなぁ?欠陥品だよ?』



 アタシがそう言うとペンキ屋は更にイライラしながら「だからぁ」と溜息交じりに言葉を吐いた。

 アタシはこの男に銃を突付けられた事も忘れて、ペンキ屋を悪戯にからかえた事が楽しくてしょうがなかった。


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