愛染堂市
 
「・・・で?次は何にするんだ?・・・ラムは今は無えぞ」



『ドイツ車や日本車じゃなけりゃぁ・・・取り敢えず何でもいいや』



「・・・ミニクーパーが昨日入った」



『クソジジイ!!冗談も程々にしろよ!!』



「新型のだぞ?」



『新型?BMだろ?しかもドイツ車じゃねぇか?!』



 俺がそう言うと車屋はイタズラに笑いながら、机の上に乱雑に並んだ帳簿の中から一つのファイルを取り出し、俺の方へ投げ付けた。



『・・・タホか?』



「型は古いが、今あるのでペンキ屋の趣味に合いそうなのは・・・それだけだ」



 俺がいくらか聞きだす前に、車屋は俺の前に左手を広げてパーを作った。

車屋は左手の小指が無い為、パーを作ると並ぶ指は四本になる。

そしてニヤリと笑い右手の人差し指を立てて「ナンバーを付けてコレだ」と言いながら、合計で五本の指を並べる。

車屋の十八番のジョークだ。俺以外の客に使っているのを見た事もある。



『・・・また500か?見飽きたぜソレ』



「ふん」



『わかったよ明日キャッシュで用意する』



「キャッシュは好きだが・・・明日は駄目だ」



『手持ちが無え』



「それはお前の事情で俺の事情じゃねぇ」



車屋はしわを寄せながら暫く考え込んだ。



「その嬢ちゃん置いて行け、ミニ貸してやるから金取って来い」



 女も俺も驚き『ハァ?』と聞き返した。

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