私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
第十九章・逆転

 王都メチル、高い塀に囲まれた城塞都市にある、豪華絢爛な王宮。その一室、王の間に、戯王は居た。

 深い椅子に腰掛け、脚と腕を組みながら、不機嫌そうに何やら考え事をしていた王は、イラついたように脚を解いた。

 その時、王の目の前の空間が薄っすらと歪んだように見えた。その空間は更に歪みを増し、やがて渦を巻くように丸まった。

「なんだ?」

 王が怪訝に呟いた瞬間、渦は逆回転して、黒い空間が円形に広がった。

 人一人が余裕で通り抜けられそうな穴の中から、ぬっと足が伸び、風呂敷包みを背負った雪村が姿を現せた。その後から、同じくゆりが続き、その次に、緊張した面持ちのリンゼが続いた。リンゼが床に足をつけると同時に穴は消失した。

「貴様は、三条雪村」

 王は驚いて立ち上がり、眉を顰めて警戒の色をあらわにした。
 衛兵を呼ぼうとした瞬間、雪村とゆり、リンゼは王に跪いた。

「王よ。お耳に入れたき儀がございます。一族の、そして、風間にかけられた嫌疑は、まったくの事実無根にございます。全てはサキョウ領主、或屡が仕組んだ事にございます」

 雪村は毅然とした態度で言い放った。

「なんだと……」
 王は僅かに目を剥く。
「申してみよ」

「はい。かねてより、大臣職に返り咲く事を狙っていた或屡殿は、不肖、私――雪村の、王への大恩を裏切る行為を利用する事を思いつかれたのです」
「こちらに詳細を記した書簡がございます」

 ゆりが言って、頭を下げたまま、王へ差し出した。
 ドキドキと胸が高鳴って、俯いた口から心臓が飛び出しそうだ。

 王は、ゆっくりとゆりへ近づくと書簡である巻物を受け取った。
 椅子へ戻ると腰掛け、書簡を開く。
 暫く読み進め、王は目を血走らせた。
 書簡を勢い良く床へ叩きつけて立ち上がる。

「……ここに書いてある事は、本当か?」

 冷淡な声音に、ゆりは身が冷える想いがしたが、雪村は勤めて冷静に返答した。
< 143 / 148 >

この作品をシェア

pagetop