私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

「風間殿の印を偽装した書簡は、私が保存していたものでございます」
「何故だ」
「それは……」
 リンゼは言葉を詰まらせた。

 彼は一定期間、伝使竜の保管庫に密書を保管していた。そして、保管庫に収まりきらなくなると、自分の家の地下室へ隠していた。保管庫よりは警備が薄くなるが、保管庫に入りきらなくなれば、引き取るしかない。

 それは万が一のため、或屡を脅すためのものだった。
 狡猾な或屡は、全てが済んだら自分を切るかも知れない。リンゼはそう危惧していた。何故なら、全てが済んだら、三条一族の報告をする必要はなくなるからだ。一族そのものがなくなってしまうのだから。
 リンゼの本音を隠すように、慌てふためきながら雪村が答えた。

「こ、この者は、私達の協力者にございます」
 戯王は胡乱な目で雪村を見た。
「本当か?」

 険しい瞳で雪村を見下ろした戯王に、雪村は「はい」と返事を返したが、間誤付いた。
 戯王は更に不審な目を向ける。

 ゆりは、密かにため息をついた。――男の人って嘘が下手ってホントなんだ。なんて、どことなく暢気に思いながら口を挟んだ。

「恐れながら、王様。彼の言う事は本当にございます。処刑された風間さんや間空さんは、サキョウ領主が企んでいる事に気づいておりました。そこで、リンゼさんに協力を求め、或屡側につくようにお願いしたのです。この計画書や密書の書簡が証拠にございます。リンゼさんが本当に或屡の仲間だったら、こんなに書簡を保管しているはずがございません」

 戯王は、片眉を釣り上げて思索する表情を浮かべた。

「確かに、その通りだ。ところで、三条雪村よ。そこな女は初めて見る顔だが」
「えっと、あの」

 自分の彼女であると告げようとして、照れて間誤付いてしまった雪村に代わって、リンゼが速やかに答えた。

「頭首殿の、奥様になられる予定の方です」
「え!?」

 雪村は声を上げて赤面し、ゆりは目を見開いてリンゼを見た。

「ハッハッハ! そうか!」

 戯王は豪快に笑う。そして、戯れるようにニヤリと笑んだ。

「大切にするが良いぞ。雪村よ。我は、お主の事は気にいらんが、娘の事は気に入った。風間同様、見込みのある奴よ」
「恐れ入ります」

 ゆりは頭を下げ、戯王はふと影を落とした。
 しかし、それを払拭するように言い放つ。

「安心せよ。或屡もすぐに首を括ってやるでな」
「ハッ!」

 三人は一斉に頭を下げた。
 リンゼはほっとした表情を浮かべ、ゆりはどことなく複雑な表情で床に視線を落とした。緊張感が解けたのと、守りきれた安堵感に、処刑という不協和音の響きが入り混じったのだ。

 そして雪村もまた、ゆりと同じく複雑な表情を浮かべていた。
 一族を守りきった安堵感、しかし、守りきれなかった者への贖罪。自業自得と思いながらも、処刑という響きに或屡と風間が重なったのだった。
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