私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

 * * *

 ゆりはおしゃれをして玄関へと続く長い廊下を歩いていた。
 突き当りから見ると、ステンドグラス全体を一望することも出来るし、陽光が射して床に映った絵の全体を見る事も出来て、昼間限定でゆりはこの廊下が好きだった。

 玄関に近づくにつれて、やはり見上げなければ絵は見れず、床の反射絵も、部分的にしか目に入らずに残念に思う一方で、色とりどりの光の中にいると思うとわくわくしたりもした。

 ゆりは上機嫌で玄関の扉の前に立つ。すると、扉が開かれようと押し出されてきたので驚いて素早く一歩後退する。

「わっ!」
 ゆりの代わりに驚いた声を上げたのは、扉の向こう側にいる人物だった。
 彼は金の短い髪を陽に輝かせ、緑の瞳を大きく見開いた。
「すみません」
「いえ」

 お互い少し苦笑しながらすれ違うと、彼はにこりと笑った。その瞬間、扉が閉まる。
 ゆりは彼の背中を見送って、前に向き直った。

「あの人、何度か見かけたことあるな」
 ぼそっと呟いて歩き出す。

 彼の名前は知らないが、彼と彼の仲間、つまり三条家の人間ではなく、政府の役人として仕事に来ている官吏を、ゆりは何度か廊下で見かけたことがあった。

 誰に訊いたわけでもないが、彼らがおそらくそうなのだろうと思った理由は二つあった。
 結に以前、三条家の人間の半分は、この城で働いているが功歩から働きに来る官吏もいると聞いた。

 その者達は功歩の人間のおおよその特徴である、金髪に緑の目だと結が言っていたことと、彼らに対する三条家の人間の接し方にあった。

 彼らに対する三条家の接し方は、ゆりにはとてもよそよそしく、排他的に感じられていた。
差別したりないがしろにしたりすることはないのだが、なんとなくお客様扱いをしているように感じられ、仕事以外で親しくするつもりなど毛頭ないという感じが伝わってきていた。
 
 そのように思うのは、ゆり自身にも覚えがあったからだ。
 三条家の人間は、ゆりにもそのように接する事が多いように感じられていた。
 だが、結と雪村だけは親しくしてくれる。そして、雪村に至っては、彼らに対しても親しげに接しているところを何度か見かけたことがあった。

「そういうところは、雪村くんの良いところなんだよね」
 ゆりは呟いて空を見上げた。
「今日は天気が良いなぁ」
 太陽のまぶしさに目を細めながら、ゆりは大通りへと続く坂を降り始めた。
< 36 / 148 >

この作品をシェア

pagetop