私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~
ゆりが後を追い壁際までくると、通路の真上に戸袋を発見した。おそらく、シャッターや雨戸のように壁がここに隠されているのだろう。
やはりここは隠し通路だったのだ。
ゆりが一歩踏み出すと、通路は思っていたよりも暗く、入り口のほんの僅かな先から広がる闇の世界に、ぞっとした悪寒が走った。
すると斜め横にいた間空が懐から一枚の呪符を取り出した。
それに小さく力を込めるようなしぐさをすると、呪符がぼっと燃え出した。
「わっ!」
思わずゆりが小さく叫ぶと、間空はふと笑った。
「驚かせたかな」
「すいません。ちょっとびっくりして……」
「ついて来なさい」
間空はくるりと暗闇に向き直り、ゆらぐ炎を頼りに進んだ。
暫く進んだところで、道は途絶えたように思えた。行き止まりになってしまった、とゆりは辺りを見回したが、すぐにそうではない事に気がついた。
間空が僅かに地面に沈んだのだ。初めは驚いたが、ただの階段だと気づいた。
階段は急で、梯子よりも傾斜が少しある程度の物だった。
ゆりは落ちないように慎重に足を運んだ。
地面に足がついたとき、ゆりはほっと肩をなでおろした。階段はたった数十段だったが、やっと地面に着いたと思えるほど緊張していたようだ。
更に深くなった闇の中で、間空がすっと移動した。
慌てて後を追おうとした瞬間、呪符の先にランプが見えて、ゆりはその場に留まった。
火が移されたランプは頼りなく光り、とても闇を晴らしてくれそうにはないが、ゆりはとりあえず安堵の息を漏らした。
その間に間空は移動し、反対側のランプに呪符を翳そうとしていた。
二つ目のランプが点くと、やっと薄暗いと言える程度になり、当たりの物もぼんやりと見える事が出来た。
その部屋は、真四角なブロック部屋だった。
大きさは八畳程度だろうか。
ほっと息をつき、ゆりは目線を下に向けた。
「……ッ!」
その瞬間ゆりは息を呑んだ。
悲鳴を上げるべきだったのかも知れないが、あまりの出来事に言葉を失ってしまった。
床には、三体の死体が転がっていた。
一人はゆりの足の真下に横たわり、指の先がゆりの靴に触れそうな距離だった。
おそらく『彼』であろう覆面の死体は、見開いたまま責めるようにゆりを見つめていたように、ゆりには感じられた。