私の中におっさん(魔王)がいる。~雪村の章~

「倭和の屋敷に転移する呪符がなかったかね?」
「あ、はい。ありました」
 振り向きざまに答えると、
「それと同じようなものだ」
 と、間空は誇るように言って、部屋を見回した。

「ここが保管庫。三条では通称、穴蔵だ。穴蔵は世界中にある」
「え!? じゃあ、一瞬で世界中に行けちゃうってことですか?」
「まあ、そういう事になるな。――ただ、気軽には使えんのだ。万が一この事が露見するば、国際問題に発展したり、刑罰対象にあたったりするからな。面倒なんだ」
 間空は、肩を竦めながら微笑む。

「そっか。そうですよね」
「ああ。だから、この呪符に関しては、三条家でも限られた者にしか持たされていないんだ」
「そうなんですね。でも、そんな――」

 大事な場所に自分が入っても良いのかと、尋ねる前に間空は歩き出した。
 その後をゆりは追って行く。

 一番隅にあった本棚の二段目には数十本の巻物と、数冊の本が置かれていた。それら全てを間空が退けていくと、奥の木の板に手を当てて、中心に爪を立てた。

 すると、ガコンと音を立てて長方形に切り出された板が外れた。
 その中には巻物が二つ隠されていた。

 一つは色あせた朱色の巻物。元々は真紅の美しい色合いだったのだろうと思わせるくらい装飾が美しい。
 もう一つは緑の巻物で、こちらも古びていた。元々は新緑のような緑だったのか、もしくは青々としていたのかも知れない。

「これは?」
「封魔書と、竜王書第三巻の写本さ。竜王書第三巻の方は途中で潰れてしまっているがな……」

 封魔書は間空の話に出てきた巻物だと分かったが、竜王書は聞いたような、聞かないような気がして、ゆりは顎に手を当てる。
 それを見ていた間空がゆりに尋ねた。

「竜王機関というものを知っているかね?」
「あ、はい。それは聞きました。正しい歴史を記す人たちだって」
「ああ、そう言われているな。竜王書とは彼らが発行している歴史書さ」
 言いながら間空は、緑の巻物を軽く振った。

「これの本物は紛失している。原因は、さっき話した話に関わりがあるのだ」
「――というと、三条の歴史の?」

「ああ。この巻物には各国が条国を亡ぼした事実が記載されていたのだよ。その出来事を世に知られるを良しとしない者がどこかの国にいたのだろうな。政府によって第三巻を排除されそうになったから、竜王機関の人間が盗んで隠したのだと、昔、曽祖父から聞いた事がある。曽祖父も伝え聞いた話だそうだが」

「そうなんですか」
 ゆりは相槌を打って、尋ねた。
「あの。そもそもどうして、竜王機関って出来たんですか?」

「昔、世界に戦争がなかった時代があったのだ。その時に、各国の歴史書を持ち寄り、検証しようという試みがあったのだそうだ。それが、竜王機関の発足に繋がったらしい。ちなみにちょうどその時期に偶然遺跡から発見された巻物が、封魔書に良く似た内容が書かれた巻物で、それを元に書かれたのが竜王書第三巻と言われている」
「じゃあ、封魔書は二つあったんですか?」
 ゆりの質問に間空は頷いたが、その表情はどことなく険しい。
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