何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「なんや、わけわからん。かずさも使教徒で、天使教も使教徒で、あのチンピラも使教徒で…。」
山を下りながらも、りんは一人ブツブツ不気味につぶやいていた。
どうやら、あのお尋ね者の月斗も、冷静なあの様子からすると、石の事も使教徒の事も知っているようだった。
そして、今京司の前を行くりんも。
すぐに不機嫌に戻った月斗に追い返されたりんと京司は、なぜか一緒に山を降りる事となった。
かずさは気が付くと姿を消し、二人を残し先に下りて行ってしまったようだ。
「天音が選ばれし少女で…。」
「お前大丈夫か?」
京司は、ブツブツ不気味に独り言を言い続けるりんを見て、少し心配そうに声をかけた。
京司は、どうやら石と関わりがあるらしいりんがどこの誰なのか気になったが、彼の事はなぜか憎めずにいた。
「…そやけど、なんで天音と天使教が知り合いなんや?」
正気に戻ったりんは、急に自分の後ろを歩く京司の方を振り返り、その疑問を投げかけた。
「…え…っと、天音とは城で会った。てか、お前も天音の知り合いなのか…?」
京司は突然りんに話をふられて、うろたえながら何とか答えた。
そして、逆にりんと天音の関係についても尋ねた。ごく自然に。
「あー、わいらは、たまたま天音がこの町に来た時に、知り合ったんや。ふーん。まあ、天音は妃候補やしなー。でも、城で天師教に会えるもんなんか?まあ、それで仲良くなってしもうたわけか。え?でも、それって妃候補として有利やんか!」
りんは、京司に深く追求することはなく、勝手な一人芝居を始めたが、京司はそれにツッコミを入れる技術は残念ながら持ち合わせてはいなかった。
「天音は知らない…。俺が天師教って事を。」
どこか人懐っこく、すぐに誰とでも友達になれてしまうりんにとって、京司の警戒心を吹き飛ばす事などおてのもの。心を許し始めた京司は、なぜかポツリとその事実を口に出してしまった。
「へ?」
予想もしなかった言葉に、りんは目を大きく見開いて京司を見た。