何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

「え…？」

あれから一体どのくらいの時間が経ったのだろう。対人スキルの高いりんは、もうすっかり辰と打ち解けて、二人で話し込んでいた。
辰も最初は警戒していたものの、彼はどうやらこの反乱に手を貸す事も、止める事も考えていないと知り、少し気を許し始めていた。何より、りんもまた、天音の顔見知りだという事が、決め手となったのは言うまでもない。

「へ…？今何て…。」

しかしそこで、りんは衝撃的な事実を知った。

「娘だ。」
「なんやて…。天音が…彼女の実の娘やて？んな話…初めて聞いたわ…。」

りんはあまりの驚きに言葉を失った。辰から聞いたそれは…。

「それが彼女がここにいる意味なんだ。」

天音が反乱を止める、その真意。
辰は力強く前を向いていた。

「んな偶然…いや…偶然やないか…。」

りんは、気がついていた。それが…

「…運命。」
「なるほどなー、だからおっさんは、天音は必ず来ると信じているわけか！」
「ああ。」
「運命ちゅうのは、よくできとる…。」

りんは確信していた。これから、ここで起こる事がこの国を変えることを。
やはりそれは、りんの直感にすぎないのだが。

「なんや、お前も来たんかいな？」
「…。」

そして、そこに到着した新たな人物を見て、りんはまたヘラヘラと笑った。

「あんたも使教徒なら、見とかないとな。」
「は？」

しかし、彼はやはり今日も機嫌が悪く、しかめっ面。それは、りんとはまるで正反対だ。
しかし、どういう風の吹きまわしか、いや、ただの気まぐれか、月斗は昨日かずさに言われた通り、この場所へとやって来ていた。

そして、りんもまた、何故か月斗がここへ来た事へは、全く驚きを見せる事はなく、ましてや当然だと言わんばかりの口ぶり。

りんはもうすでに予感している、これから起こる事の重要さを。
タッタッタッ

その時、彼らの耳に聞こえてきたのは、誰かが駆けてくる足音だった。

「ん？」

その足音が聞こえてくる方向を振り替えり、りんが眉をひそめた。
なぜなら、その足音は町の外ではなく、中から聞こえてきたからだ。

「ナ…。」

その姿を目にした辰は、言葉を失って固まった。

「お前…。」

りんもまさかとは思ったが、目の前のその人物を目を細め凝視する。

「なんでお前が…？」

そしてもちろん月斗も、怪訝な顔を見せている。