何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
サー
その時、また風が優しく吹き抜けた。
「いいってさ。」
「え?」
「聞こえなかった?許してくれるって。ほら風がそう言ってる。」
「…。」
天音もその風の優しさを感じた。
そして、京司の優しさも…。
「へへ。…ありがとう。京司。」
天音は京司に向かって、ほんの少しだけ笑顔を見せた。
その京司の優しさに、天音は心が軽くなり救われた。
「天音…。」
「ん?」
「無理に笑わなくていいんだぞ。」
京司にはわかっていた。
「…。」
「泣きたい時は、泣いた方がスッキリするぞ。」
彼女がずっと表情を強張らせていたのは、泣くのを我慢しているからだと…。
「…う…。」
天音の目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
「うわーん!」
天音は大声を出して泣いた。そして京司の胸にすがりついた。
「どうしたら、いいのかわからなくって…。」
京司は自分の胸にしがみつき、子供のように泣きじゃくる天音の頭を優しくなでた。
「何したか知らないけど、辛いなら辛いって言え。何かやらかしたら、ちゃんと謝ればいいんだよ。」
「うー、ひっく。」
泣きじゃくる天音に、京司は優しく声をかける。
この時初めて、京司は辰の言った言葉の意味がわかった気がした。
『このままでは、あの子はダメになる』
何があったかは分からない。しかし、彼女の細い肩が震えるのを見ていてわかった。
———— 彼女は、決して強い人間ではない。
「天音一ついい事教えてやるよ。」
「え?」
天音は京司のその言葉に顔を少し上げた。
「妃候補は、一度家に帰れる事になった。」
京司の口からは、自然とその言葉が出ていた。
それが、天音の心を軽くする言葉だと知っていたから。
「本当に…?」
天音の涙は自然と止まり、じっと京司を見つめていた。
「ああ…。」
そんな二人を夕日の柔らかなオレンジの光が包んでいた。