何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】
「…もうこれ以上天音を傷つけないで…。」
青がか細い声を絞り出した。
「私にはどうしようもない…。」
今日も当たり前のように青の部屋に居たのはかずさだ。
今や、青の部屋をまるで自分の部屋のように自由に行き来できるのは、かずさだけなのかもしれない。
「…。」
青がいくらそれを望んでも、その願いは叶わない。
かずさに言われなくても、それは青にもわかっている。
でも、願わずにはいられない。
「運命が呼んでいる…。」
かずさが青の部屋の窓へと視線を移して、まるで独り言のように小さくつぶやいた。
「運命?」
「あなたも、自分の運命を知りたい?」
青はその言葉に、顔を強張らせた。
彼女の言うそれが、本当に運命と呼ばれるものなのかはわからない…。
「…人はみなそうじゃないの?」
「そうね…。人は愚かだものね。」
かずさの冷酷な声が、今日はいやに部屋に響く。
「教えてよ。ぼくの運命は?」
「…。」
「じゃあ、未来は?」
「未来は語るためにあるんじゃない。」
外から差し込むオレンジの光が、かずさの顔を照らした。