何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【前編】

「天音の母親は、あのジャンヌなんやろ?」

りんに、どうしてもついて行きたいとお願いをされた天音は、仕方なくそれを承諾するしかなかった。
そしてりんと二人、ジャンヌのお墓の前へとやって来た。
そこでりんは天音に何の躊躇もなく、ここぞとばかりにその事について尋ねた。

「え、うん。知ってたの?」

天音は、りんがその事を知っているとは思ってもいなかったため、少し驚いた表情を見せた。

「…すまんな。あの兵士のおっさんに、聞いてもうた。」
「そっか…。」

りんは申し訳なさそうに、苦笑いを浮かべた。
普通なら自分の知らないところで、自分の素性を聞いたら、嫌な気持ちになるのは当たり前だ。
しかし、天音はなぜか、その事実をすんなりと受け止めた。

「まあ、びっくらこいたわ。ジャンヌはある意味有名人やからな。」
「みんな、知ってるんだね…。」

天音は、母親の事を知られた事には、あまり多くは言及はしなかった。
そして、りんは更にジャンヌの話を続けた。

(彼女はやはり、母親がジャンヌだという事実を受け入れてはいないのだろうか?)
そんな事をりんは頭の片隅で考えていた。

「まあ、この国を救おうとした伝説の人やからな!」
「でも、魔女と呼ばれて殺された。」

天音は何の感情も込めずに、淡々とその言葉を発した。

(いや、違う。)

「ひっどい話やなー!」

りんはわざと、大きな声でそう言ってやった。しかし、天音からの返答はやはり無い。

「ひどい話や。始めは神の力だなんだって崇めてたくせに、いつの間にか魔女やなんて…。」

彼女は、全てわかっていて、受け止めようとしている。
だからこうやって、彼女のお墓へと足を運んでいるのだ。

「そうだね…。」
「知らんかったか?この話も…。」
「…うん。」

天音はゆっくりと、目を伏せた。
それから、またゆっくりと目線を上げて、そこにあるお墓へと目を向けた。
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